
7月中旬、香港の日用雑貨チェーン「日本城」が「真好城」へのブランド名変更を発表した。260店舗以上ある店舗は、8月末までにすべて新名称への切り替えを完了する予定だ。
「日本城」は、香港の上場企業「国際家居零售(International Housewares Retail Company)」傘下のチェーンブランドである。
この看板は30年以上にわたって使われてきた。それが突然変更されるとなれば、さまざまな疑問が生まれるのも当然だろう。
何しろ「日本城」は香港ですでに広く知られた存在であり、高いブランド認知度を誇っている。高い知名度は、より強い信頼や安定した集客力につながる。
さらに、「日本城」という名称は、明確なポジショニングを打ち出す「バーティカルマーケティング」の考え方にも合致している。明確な位置づけと独自のイメージは、小売市場において他社との差別化を図るうえで大きな武器となる。
長年、厳しい商業の世界を生き抜いてきたこの香港企業が、そのメリットとデメリットを理解していないはずはない。
それでも、長い年月をかけて築き上げた看板を変えることを選んだ。
これは衝動的な判断ではなく、その背景には相応の理由があるはずだ。
「単一の原産地」というイメージが、現在のビジネスモデルと合わなくなった
同社の説明によれば、「単一の原産地を示すブランドイメージは、もはや現在の事業モデルを反映していない」という。
言い換えれば、商品の調達先がますます多様化し、「日本城」という現在のブランド名と実際の事業内容との間にズレが生じているということだ。
報道によると、「日本城」で販売される商品のうち、日本商品の割合はすでに1割強まで低下しており、それ以外の商品は主に中国本土や東南アジアなどから調達されている。
香港メディアの中には、「それなら『国貨城』と呼んだ方がよいのではないか」と冗談交じりに伝えるところもあった。
さらに現在では、香港の一般的なスーパーやドラッグストアでも日本商品を簡単に購入できる。
そのため、「日本城」というブランドがかつて持っていた象徴的な意味も、徐々に薄れている。
30年前、「日本」という二文字そのものに価値があった
香港市場における日本ブランドの役割は、すでに変わり始めている。
時計の針を30年前に戻してみよう。
当時、「日本製」といえば、
安全、品質、信頼性、流行、高級感――
こうしたイメージと結びつくことが多かった。
多少価格が高くても、香港の消費者の購買意欲を止めることはできなかった。
多くの人にとって、日本ブランドは単に「使いやすい」「長持ちする」というだけではない。
それを所有すること自体にある種のステータスがあり、消費者に大きな「感情的価値」を提供していた。
これこそが、「日本城」が長年香港市場で確固たる地位を築くことができた重要な理由の一つだった。
外国企業が自社の看板にあえて「日本」という二文字を掲げる。
それ自体が、日本ブランドへの一種の「お墨付き」であり、日本のソフトパワーを象徴する現象でもあった。
その背景には、日本の職人文化に象徴される品質への徹底したこだわりだけでなく、戦後、日本が「平和国家」として築いてきた国際的なイメージもあった。
中国製品の競争力が大きく変わった
しかし、30年という時間が流れれば、市場も変わる。
中国製品がデザイン、品質、耐久性などの面で急速に競争力を高めるにつれ、香港の消費者の間でも、日本ブランドに対するかつてのような「絶対的な憧れ」は徐々に薄れてきた。
現在の香港の消費者は、商品そのものの体験を重視すると同時に、コストパフォーマンスにもより敏感になっている。
つまり、
品質・価格・実用性のバランス
をより冷静に見るようになったということだ。
一橋大学の鈴木智子教授は、『日本経済新聞』の関連報道の中で、日本の商品やサービスは依然として高品質である一方、高品質であるというだけでは、かつてのような強力な差別化にはならなくなっていると指摘している。
近年、中国では消費者の声を素早く商品開発に反映する「聞く力を生かしたイノベーション」と、充実したサプライチェーンを背景に、スマートホームや生活サービスなどの分野で競争力の高い商品・サービスブランドが次々と登場している。
こうした商品は、現在の香港消費者のニーズにもよく合っている。
小売企業である「日本城」にとって、当然ながら利益の確保は重要だ。
より大きな利益を生み出せる商品があれば、その商品を売り場に並べる。
ビジネスとして考えれば自然な判断である。
その意味では、日本ブランドの相対的な競争力が以前より低下していることも否定できない。
中国市場でも「日本ブランド」の立ち位置が変化
香港における日本ブランドの状況は、現在の中国市場全体における変化とも重なる。
もちろん、日本は精密機器やアニメ文化などの分野では、今なお大きな影響力を持っている。
また、「スシロー」のように、中国市場で行列ができるほど人気を集める日本の外食ブランドも存在する。
しかし、長期的な流れで見れば、日本ブランドという「金看板」が以前ほど圧倒的ではなくなっていることも事実だ。
白物家電をはじめとする家電分野では、日本企業の再編や事業売却が相次いだ。
自動車分野では、日本ブランドが長年築いてきた競争優位が、中国EVメーカーの急成長によって大きな挑戦を受けている。
人型ロボットの分野でも、日本はかつて世界をリードしていたが、現在では追う立場になりつつある。
さらに、イオンやイトーヨーカ堂など、日本を代表する小売ブランドも、中国市場においてかつてほどの勢いを持っているとは言い難い。
「日本ブランド」というだけで集客できる時代は、徐々に終わりつつある。
その背景をたどれば、日本の伝統的な企業の中には、依然として保守的な姿勢が強く、発想や経営の転換が遅いため、急速に変化する中国市場のスピードについていけなかった企業も少なくない。
「脱・日本」の背景に政治的要因はあるのか
「日本城」の名称変更については、政治的要因を完全に切り離して考えることも難しい。
昨年以来、高市首相の台湾をめぐる発言や、東京側の日中関係をめぐる一連の姿勢は、中国政府の警戒と反発を招いてきた。
一方、日中両国の経済関係は深く結びついている。
また、中国の消費者自身も以前より成熟し、理性的で、自信を持ち、多様な価値観を受け入れるようになっていることなどから、中国社会で大規模な「日本製品不買」の動きが起きているわけではない。
しかし、現在の消費者の態度が穏やかだからといって、企業が将来にわたって安心できるとは限らない。
ビジネスは常に競争である。
競争の激しい中国市場では、企業に許される失敗の余地は決して大きくない。
リスクを回避し、問題が起こる前に備えることは、企業経営における重要な選択肢の一つだ。
企業の意思決定は、目の前の利益だけではなく、中長期的なリスクまで考慮する必要がある。
もし今後も日中関係の改善が進まなければ、香港「日本城」の名称変更のような「脱・日本」を意識した動きが、中国のほかの企業にも広がる可能性は否定できない。
そうなれば、影響を受けるのは日本企業だけではない。
日本が長い時間をかけて築いてきたソフトパワーや国家イメージにも影響が及ぶ。
かつて企業にとって明確な「プラスの資産」だった「日本」という二文字が、場合によっては潜在的なリスクとして意識されるようになる可能性もある。
一枚の看板が映し出すもの
結局のところ、一枚の看板が背負っているものは、私たちが想像する以上に重い。
香港「日本城」が「真好城」へと名前を変える出来事は、単なる街の話題ではない。
その背景には、消費市場の変化、ブランド価値の変化、中国製品の競争力向上、そして日中関係という複数の要素が絡み合っている。
言い換えれば、これは一つの**「政治経済学」**でもある。
「日本」というブランドの価値は、これからどのように変化していくのか。
そして、日本企業と日本政府はこの変化をどう捉え、どう行動するのか。
今後の動向が注目される。
