資生堂の赤缶ハンドクリームが教えてくれたこと。売られたのは商品ではない。古い勝ち方だった。

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私はこの10年、中国市場で、日本の名品が売れていく姿も、消えていく姿も見てきました。

現場で売ってきたから分かります。

本当に良い商品なのに伸びないもの。
そこまで強くないのに爆発的に売れるもの。
経営者が変わった瞬間に、急に市場で動き出すもの。

その象徴の一つが、資生堂の赤缶ハンドクリーム でした。

中国でも知っている人は多く、冬になるとよく動く商品でした。まとめ買いする人もいる。昔から信頼されている定番商品です。

でも私は昔からずっと不思議でした。

こんなに売れる商品なのに、なぜもっと本気で伸ばさないのだろう。

日本には、“売れるのに眠っている商品”が多すぎる

日本には、本当に良い商品がたくさんあります。

品質が高い。
信頼がある。
リピートもある。

それなのに伸びない。

なぜか。

私は現場で何度も見てきました。

良い商品が売れないのではない。
売れる前に、社内で止まってしまうのです。

慎重すぎる。
判断が遅い。
前例がない。
責任を取りたくない。

その間に、市場は次へ進んでいます。

2021年、資生堂は日用品事業を1600億円で売却した

2021年、資生堂はパーソナルケア事業を約1600億円で CVC Capital Partners に売却しました。

この中には赤缶ハンドクリームだけではなく、
  •  TSUBAKI
  •  fino
  •  SENKA
  •  uno
  •  Ag DEO24

など、多くの主力ブランドが含まれていました。

その後、この事業は FineToday として独立しました。

つまり、売られたのは一商品ではありません。

日本の日用品ブランド群そのものです。

資生堂は、なぜ売ったのか

答えはシンプルです。

資生堂は、世界で戦う高級化粧品企業へ舵を切ったからです。
  •  SHISEIDO
  •  Clé de Peau Beauté
  •  NARS
  •  prestige skincare

高単価、高利益率、グローバルブランドへ集中したかった。

一方、日用品事業は、
  •  単価が低い
  •  競争が激しい
  •  利益率が薄い
  •  中国ローカルブランドも強い

つまり資生堂から見れば、

守るより、切る方が合理的だった。

これは冷静な経営判断です。

でも、CVCには宝に見えた

ここが商売の面白いところです。

資生堂には重く見えた事業が、投資ファンドには魅力的に見えた。

なぜか。
  •  すでに知名度がある
  •  売上基盤がある
  •  リピート需要がある
  •  アジアでまだ強い
  •  経営改善余地が大きい

つまり、

弱い事業ではなく、眠っている事業だったのです。

私は市場で変化を感じていた

その後、現場では空気が変わりました。

赤缶ハンドクリームを以前より見かける。
流通量が増えたように感じる。
価格帯も広がる。
販路も増える。

私はその時、強く感じました。

経営者が変わると、商品の動きまで変わる。

商品は同じ。
変わったのは、動かし方です。

私たちは儲からない。でも会社全体は価値が上がる

現場の販売側はこう見ます。
  •  単価が安い
  •  利益が薄い
  •  価格競争が激しい

だから「儲からない」と感じます。

でも経営者は違う景色を見ています。
  •  売上が伸びる
  •  在庫回転が良くなる
  •  利益率が改善する
  •  ブランド価値が再評価される

見る場所が違うのです。

そしてFineTodayは、再び大型案件になった

その後 FineToday は成長し、2026年には Bain Capital による買収が報じられました。

これは、資本市場から見て、依然として高い価値を持つ会社だと評価されたということです。

商品が急に良くなったわけではありません。

見せ方、売り方、経営の仕方が変わった。

それだけで価値は変わるのです。

今、中国市場でこれらの商品はどうなっているのか

ここも現実です。

fino は今も非常に強い。SNS時代に再評価され、中国でも人気があります。

SENKA は依然知名度がありますが、中国ローカルブランドとの競争は激化しています。

TSUBAKI は知名度は高いものの、ヘアケア市場全体がレッドオーシャンです。

uno は一定の存在感がありますが、若い男性市場は変化が早い。

そして 赤缶ハンドクリーム は、爆発的人気商品ではなくなりました。

でも消えていません。

今は、安心感のある定番商品、冬の実用品、長く売れる商品へと役割が変わったのです。

赤缶ハンドクリームが教えてくれたこと

私はこの商品を見て、強く思いました。

世の中には、

売れない商品と、
売られていない商品がある。

この二つは、まったく違います。

赤缶ハンドクリームは、後者だった時期があったのかもしれません。

日本企業に足りないもの

品質ではありません。

商品力でもありません。

私が現場で感じるのは、

決断の速さです。

売れる時に出す。
市場がある時に攻める。
時代が変われば変える。

これができる会社は強いです。

最後に

資生堂が売ったのは、赤缶ハンドクリームではありません。

古い勝ち方です。

CVCが買ったのは、ハンドクリームではありません。

まだ目を覚ましていないブランド資産です。

そして同じことは、今も別の日本ブランドで起きています。