
私はこの10年以上、中国市場で日本の商品を売ってきました。売れていたブランドが消えていく姿も、かつて無名だったブランドが伸びる姿も、現場でたくさん見てきました。そんな中で、ずっと気になっているブランドがあります。柳宗理(Sori Yanagi) です。
正直に言えば、柳宗理は派手なブランドではありません。テレビCMも少ない。芸能人広告もない。値段も安くない。それでも中国市場では、今も一定の支持があります。多くの日貨が価格競争に巻き込まれる中で、柳宗理は静かに売れ続けています。
ここに、日本企業が学ぶべき本質があります。
中国のキッチン用品市場は非常に大きく、鍋・フライパン・調理器具・保存用品などを含む家庭厨房用品市場は、近年 数千億元規模 と言われています。その中で、低価格量販帯は中国ローカルブランドが強く、日本ブランドが勝ちやすいのは 中高価格帯・デザイン志向・品質志向セグメント です。柳宗理は、まさにこの領域で存在感を持っています。
柳宗理の商品価格帯を見ると、中国市場では決して安売り商品ではありません。ステンレスボウルは 199〜499元前後、トングやキッチンツールは 99〜299元前後、やかんや鍋類は 699〜1,500元以上。完全に中高価格帯です。安さでは勝負していません。
それでも売れる。なぜか。
理由はシンプルです。柳宗理は商品を売っていない。生活美学を売っているからです。
多くの日本ブランドは中国でこう言います。日本製です。品質が高いです。長持ちします。職人技です。もちろん間違っていません。でも今の中国消費者は、それだけでは動きません。
今の中国消費者、特に都市部の30代〜40代中産層は、商品を通して「自分の暮らし」を買っています。家が整って見えるか。キッチンが美しく見えるか。使うたびに気分が上がるか。SNSに載せてもセンス良く見えるか。5年後も古く見えないか。柳宗理は、この感覚にぴったり合っています。
私は現場で感じます。昔、中国では「日本のものなら売れる」時代がありました。でも今は違います。今は “日本製だから買う” のではなく、“意味があるから買う” 時代です。 柳宗理には意味があります。
柳宗理本人は日本を代表する工業デザイナーで、バタフライスツールなど世界的名作も残しています。その背景がブランド価値になっています。中国の感度が高い消費者は、こういうストーリーをよく見ています。
そして、ここがとても重要です。なぜ柳宗理は中国の類似品に潰されず、象印は平替に押されたのか。 答えは、売っている価値が違うからです。
象印は保温性能、機能性、信頼感で売れました。つまり機能商品です。機能商品は、一度性能差が縮まると価格競争になります。中国メーカーが同等レベルの保温力を出し、デザインを増やし、価格を半分にすれば、多くの消費者は移ります。
一方、柳宗理は違います。柳宗理が売っているのは、ボウルそのものではありません。
• この道具を選ぶ感覚
• 暮らしの整い方
• 長く使う満足感
• 日本デザインへの共感
• 台所に置いた時の空気感
こうした価値は、形だけ真似しても再現できません。だから中国には柳宗理風の商品がたくさんあっても、本物を買う人は今もいます。
実際、中国市場で柳宗理の競合は多いです。例えば MUJI のステンレスボウルは 79〜199元前後、网易严选や京东京造など中国系ブランドは 49〜159元前後、ノーブランド類似品は 29〜99元前後 で大量に販売されています。鍋類でも、中国ブランドは 199〜499元 で十分使える商品を出しています。
つまり消費者から見れば、柳宗理 399元、MUJI 149元、中国類似品 59元。こういう比較が日常的に起きています。
それでも柳宗理が売れるのは、価格ではなく「持つ意味」で選ばれているからです。
そして、売り方も他の日本メーカーと違います。多くの日本メーカーは、代理店任せ、EC任せ、価格任せになりがちです。しかし柳宗理は、中国では 小紅書(RED)・デザイン系EC・生活方式系アカウント・中高端雑貨店 と相性がいい。つまり、量販店より 世界観が伝わる場所 で売る方が強いのです。
私ならこう売ります。
“日本主婦が10年使っても飽きないボウル”
“30代から始める、本物のキッチン道具”
“流行ではなく、定番を選ぶ人へ”
“家の空気まで整う道具”
販売チャネルで言えば、中国市場では次が合っています。
• 小紅書(RED):女性中産層・美意識層への訴求
• 天猫国际 / 京东国际:正規輸入・安心感重視層
• 抖音EC:実演販売(収納性・使いやすさ)
• 高端生活雑貨店 / 家居セレクト店:実物体験型
• 設計師・インテリアKOL連携:価値訴求型
逆に、ただ安く大量販売するルートに入れると、柳宗理の魅力は死にます。ここが、多くの日貨との違いです。
象印は機能で売れた。
サーモスは性能で売れた。
花王は信頼で売れた。
でも柳宗理は、感性で売れている。
機能は追いつかれます。価格も追い抜かれます。でも感性・設計思想・世界観は簡単にコピーされません。
私はこう思っています。これから中国市場でチャンスがある日本ブランドは、大企業だけではありません。大切なのは、商品に本当の価値があること。その価値を中国市場向けに伝え直すこと。小さくても継続して届けること。
この3つができれば、まだ十分に可能性があります。柳宗理は、その良い参考例だと思います。
最後に率直に言えば、中国市場で苦戦している日本企業は少なくありません。でも私は、商品が悪いとは思っていません。伝え方と売り方が、今の市場に合っていないだけです。
日本には、まだ中国で評価される商品がたくさんあります。知られていないだけ。届いていないだけ。眠っているだけです。
柳宗理を見るたびに、そう感じます
